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時代で選ぶ - 明治

背守り

 生後1カ月を過ぎると、このような祝着を赤ちゃんに着せてお宮参りを行いますが、その後もまだまだ7歳くらいになるまで些細なことで死亡してしまうことの多かった魂の安定しない子供の命は、神の手の内にあるといわれてきました。「七歳までは神のうち」という言葉にあるとおりです。
[「背守りのある子どもの祝着」西野芦澤家資料 南アルプス市文化財課蔵]


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 「背守り」とは、子供の守護や魔除け・虫封じのために子供の着物の背の襟の下に色糸で施す「飾り刺し」や「糸じるし」、「飾り物」のことです。
 こちらの男女のお宮参りの祝着には、紅白の色糸でひし形に飾り刺しされていました。ヒシは池や沼に生える生命力の強い水草で、水面に繫茂する葉はひし形をしています。ヒシの実は食用にもなるので、子孫繁栄の他に食べ物に困らないようになどの子供への願いが込められた意匠なのでしょう。
[「背守りのある子どもの祝着」西野芦澤家資料 南アルプス市文化財課蔵]
 そんなひし形の飾り刺しをいま一度よく観察すると、赤と白の2本の糸を一緒に針に通していますが、紅白の糸がコイル状になる様に、ねじって縫い付けていることに気がつきました。手が込んでいて、愛しいものに対するあふれる想いに触れ心躍ります。
[「背守りのある子どもの祝着」西野芦澤家資料 南アルプス市文化財課蔵]
 飾り刺しには様々なモチーフがあったようで、明治時代に入る頃には女性の教養として裁縫の教科書にも載っていたようです。
[『共立女子職業学校櫻友会裁縫研究部編増訂裁縫新教科書上巻(大正七年発刊 大正十五年訂正四版発行)』南アルプス市文化財課蔵]
 先日、櫛形地区小笠原のお宅から寄贈していただいた大正時代の裁縫の教科書も意匠化されたさまざまなデザインが紹介されています。
[『共立女子職業学校櫻友会裁縫研究部編増訂裁縫新教科書上巻(大正七年発刊 大正十五年訂正四版発行)』南アルプス市文化財課蔵]
[『共立女子職業学校櫻友会裁縫研究部編増訂裁縫新教科書上巻(大正七年発刊 大正十五年訂正四版発行)』南アルプス市文化財課蔵]
 一方、背守りには「糸じるし」のようにもっとシンプルなものもあります。
 まるで方位マークのようです。南アルプス市内のお宅でみせていただいた子どもの着物にも、これと同じものが縫い付けられているのを見せていただいたことがあります。
[中央市豊富郷土資料館所蔵(2014年10月撮影)]
 ではなぜお守りを背中に付けたのでしょうか?その理由は、大人の着物には背中に必ず1本の縫い目がありますが、子供の着物は一つ身で仕立てられ、縫い目がありません。そのため、「目」の無い無防備な背後から魔物が忍び込みやすいと考えられたようです。現代より医療環境の整っていなかった時代、特に産まれたばかりの危うく頼りない命を魔物が奪っていかぬよう、赤ちゃんの着物の背中に魔除けのしるしをつけたのです。背守りの縫い方も、教科書に載っていたのでご紹介します。
 『六、背守の縫ひ方  背守は、襟附より二糎(五分)程下りて、三〇糎(八寸)の間に施すものにして、女児には大針を背に七針、右方へ六糎(一寸五分)開きて、斜に五針を出し、(針目の間を五粍(一分五厘許り)とす。)男児には、女児の反対に小針のみを表はし、又左方へ斜に開きて縫ふ慣例なり。  背守を縫ふには、予め針目を計りて紙に描き、之れを背に綴ぢ附け置き、紅白の糸又は青・黄・赤・白・黒の五色糸にて、其の上より縫ひ、後ち、紙を取り去るなり。』
※二糎=2cm ※五粍=5㎜

 背守りについて、文献を探して読んでみると、南アルプス市を含む山梨県内で多く見受けられる色糸で縫うタイプの背守りが多く紹介されていますが、一方で、押絵のように綿を中に詰めたり、小袋状にして神仏の御守りや小豆などを詰めた飾り物を背中に縫い付けるタイプもあることを知りました。
 また、色糸で縫うタイプに入る「糸じるし」にも、地域や明治時代以降の裁縫教科書によっては、針目の数や糸端の処理や長さに、少しづつ異なる流儀があり、またこれも興味深いところです。
[「背守の縫ひ方」『共立女子職業学校櫻友会裁縫研究部編増訂裁縫新教科書上巻』南アルプス市文化財課蔵]

※参考文献
『日本民具辞典』1997年 日本民具学会編 ぎょうせい
『日本民俗宗教辞典』1998年 東京堂出版
「子供の御守り」『子どもの中世史』斎藤研一 2003 吉川弘文館
「着物にみる児をまもる(守、護、衛)形象」『子どもと民藝』民藝845 2023年5月号 日本民藝協会

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