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大正7年の白米廉売券と米騒動

こちらの資料は、大正7年夏に山梨県が発行したお米の安売り券です。表側には、「山梨県中巨摩郡役所」の印が押されています。
この白米廉売券が発行された大正7年の夏は、全国各地で米騒動とよばれる暴動蜂起があった年です。8月2日に政府がシベリア出兵を宣言したため、その後急激に投機目的の米穀の買いや売り惜しみが起こった上に、前年産米の不作などの要因もあり、米価の急高騰が発生する中、日本各地で暴動事件が起きました。
 8月15日夜には、甲府でも舞鶴公園で行われようとしていた米価高騰抗議市民大会に刺激された群衆が、山田町13番地にあった若尾家前に集まり暴徒化し、若尾邸を焼き打ち壊すという事件が起きています。(甲府での米騒動が若尾邸焼き討ちに至るまでの様相は山梨県史通史編5近現代1に詳しくまとめられている)
[「大正7年 白米廉売券」(南アルプス市教育委員会文化財課蔵):大正7年夏に山梨県が発行したお米の安売り券]
今回ご紹介している白米廉売券は、この大正7年夏に起きた米騒動対策として、山梨県から芦安村各戸に配られた米の安売り券だと考えられます。芦安村誌(平成6年発行)によると、

『政府は三百万円の恩賜金を各府県に配布し、米価対策費一千万円を予算化した。芦安村はこれに基づき、恩賜金七五円三〇銭分の米の廉売券を交付した。対象は三七戸、一六二人。しかし、四戸が交付を辞退したので、その分を割り振りし直した。』

とあります。
[表側には「山梨県中巨摩郡役所」の印]
この白米廉売券の裏面には、注意事項として『一、本券ハ1枚二付 内地米1升又ハ外米2升二対シ金10銭ノ廉売二用ウルモノトス』『一、本券の使用期間ハ大正7年9月30日迄トス』とあります。
では、その内容をかみ砕いて読んでみましょう。
「内地米1升又は外米2升に対し金10銭ノ廉売」ということですから、同じ値段で外米(当時の東南アジアの国々産の輸入米)は国産米の倍量買えたということですね。この時に外米を食べた人々の言葉として白根町誌(昭和44年刊)に『南京米を喰いやすと、わしゃやせる(南京米はラングーン米のことであるという注釈有)』というのが載っていました。ラングーン米というのを調べてみると、現在のミャンマー辺りでとれた細長い米粒の長粒種で、「食べ慣れないけど安いから食べているが痩せてしまう!」という不満が皆にあったということでしょう。
 しかしながら、米1升は1.5㎏ですから、この廉売券があれば、米30キロであったら金200銭=2円で国産米が買えたことになります。 ちなみに山梨県史によると米騒動中の大正7年8月8日が甲府の最高値で、米4斗入り1俵(60k)19円20銭とあります。30キロでは9円60銭支払うことになりますから、この廉売券で30キロを2円で買えたのはかなりの救済策だと思います。
[裏面には「一、本券ハ1枚二付 内地米1升又ハ外米2升二対シ金10銭ノ廉売二用ウルモノトス」「一、本券の使用期間ハ大勝7年9月30日迄トス」とある]
また、この資料は芦安役場にまとめて綴った状態で保存されていました。役場が廉売券を使って買う米を米問屋から事前に調達し、村民に購入させた可能性も考えられます。芦安村への恩賜金が75円30銭だったということですから、内地米であれば753升分=1102.5㎏の購入券配布となり、単純に戸数で割ると一戸当たり29.7㎏ですし、人数割りしてみると6.8㎏ですから、一ヶ月分くらい充分に食べられる量の米がこの白米廉売券を使用すれば問題なく買えたようですね。

米騒動は全国的にも8月下旬までには落ち着き、発生しなくなりました。この廉売券の使用期間にも、「9月30日迄」とありますので、おおよそそのような計算で算出された救済策だったのでしょう。
[旧芦安役場資料である白米廉売券は、多くが切り離されていない状態で綴られている(南アルプス市教育委員会文化財課所蔵)]

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