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各地を旅する舟乗り地蔵さん

南アルプス市甲西地区湯沢にある、お舟に乗ったお地蔵様。
こちらの「湯沢の舟乗り地蔵」については、平成7年に中巨摩郡文化協会連合会郷土研究部が発行した「中巨摩の石造文化財」にも取り上げられていて、そこには『安山岩製で高さ88cm、舟の長さ85cmで、水難守護・諸病平癒と祈願した。昔、旅をする時に、この地蔵にお参りして出発した』と記されています。
造立年は、舟の側面に銘があり、『享保四已亥年中 セ主湯沢村 塚原村』と記されています(岡野秀典氏『山梨県の岩船地蔵』 1999  山梨県考古学論集Ⅳ 山梨県考古学協会より)。このような御舟に乗ったお地蔵様は、「岩船地蔵」と呼ばれることも多く、享保四年(1719)造立のものが大多数です。岩船地蔵の造立は、享保四年に関東地方西部から中部地方東部にかけて流行した岩船地蔵信仰に由来するからです。


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岩船地蔵信仰とは、現在の栃木県栃木市岩舟町にある岩船山高勝寺から、その周辺の岩から造られた岩船地蔵が送り出され、村から村へ巡っていくうちに信仰を伝えていくもの。
『岩船地蔵が送られてきた村では、それを迎えて華やかな服装をし、にぎやかに囃し立て、念仏をし、近隣の村々まで巡った(県文化財ガイドHP「上積翠寺の岩船地蔵」より)』とあります。そして、『岩船地蔵が巡ってきた村々では、その記念として石造の岩船地蔵を造り、路傍の仏として祀った』のだそうです。山梨県内では65躰の舟に乗ったお地蔵さまがあるそう(上記県文化財ガイドHPより)で、当地での流行の勢いが凄まじいものであったことが判っています。
舟乗り地蔵はここ湯沢の他にもあり、画像は、白根地区在家塚紺屋村舟乗地蔵1躰と櫛形地区小笠原源然寺舟乗り地蔵2躰、甲西地区秋山光昌寺2躰。
この他にも、白根地区在家塚薬王寺舟乗地蔵1躰と櫛形地区上宮地長昌院舟乗り地蔵1躰、芦安地区芦倉新倉の舟乗地蔵1躰の岩船地蔵が南アルプス市市内にあります(『山梨県の岩船地蔵』1999岡野秀典 山梨県考古学論集Ⅳ 山梨県考古学協会」他より)。(岡野氏論文リストには、小笠原源然寺舟乗り地蔵は1躰のみの記載ですが、「中巨摩の石造文化財」には蓮座に乗るタイプがもう1躰記載されています)
岩船地蔵(船乗り地蔵)さんは、造られた年が享保四年とそれに続く数年と限られていることから、その形を見ただけで、およそ300年前のものとすぐわかる興味深い石造物です。
水害の多かった地域なので、御舟にのったお地蔵さんは、水難除けとして、300年前の甲州の民の心にすっと入り込んだようですが、この湯沢の船乗り地蔵さんには、病気平癒と旅の安全も祈願したそうです。

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