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衣替えで洗い張り

昭和40年代の前半までは、日常の生活で着物を着ている人がまだたくさんいました。通常の洗濯では、たらいと洗濯板を使って「丸洗い」していた着物も、春と秋の季節の変わり目に行う衣替えでは、縫い目をほどいて反物の状態にして「解き洗い」をしたそうです。ほどくと縫い目にたまったほこりや汚れが落としやすくなるからです。 
解き洗いの後には、「張り」という独特の干す工程があり、この「解き洗い」から干すまでの一連の作業をまとめて「洗い張り」といいます。
「張り」のやり方は二通りあり、板にぴたっと密着させて張る「板張」と、伸子針(しんしはり)でぴんと張る「伸子張」のいずれかの方法で、糊付けして干しました。
[板張]


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木綿の浴衣やレーヨンなどの普段着は板に張り付ける「板張」で、縮緬や紬などの絹織物には伸子針で張る「伸子張」で干すというように、布地の素材でしわの伸ばし方や使用する器具を変えていたようです。
[伸子張]
[板張に使う「張り板」は、幅約40センチ長さ2メートルほどの大きさ。板の上でしわを伸ばした布地に糊を付けて張ったあと、壁などに立てかけて乾かしました。どの家にも3枚くらいの張り板があったそうです。]
[伸子張に使う「伸子針」]
[伸子針は、長さ40センチほどの竹ひごの両端に2ミリ程度の長さの細い針がつけられたもの]
[はりもの器は、反物の両端を挟み込んで固定するための針のついた木製の器具]
[反物を挟んだ状態のはりもの器に付けられた紐を、庭木などに縛って布を広げるのに使用する]
[はりもの器によって庭に張り渡された布に、伸子の両端の針を3ミリほどの間隔で両縁に挿していき、弓なりに張ることで、しわを伸ばし縮まないようにする]
洗い張り後の着物は、再び縫い合わせて同じ姿に戻されましたが、使い込んで布パーツの一部が綻んでしまった場合は、モンペや子供用にと別の形に縫い直されて活用されました。多くの家庭で着物をほどき、洗って、張って、再び縫い合わせて着るということが日常で行われていたなんて、昔の丁寧な生活を垣間見るようです。
[共立女子職業学校桜友会裁縫研究部編裁縫新教科書上巻(大正15年刊)着物は一枚の布を無駄なく裁ち切ってつくられている]
[伸子張は、新しく着物を仕立てる際にも布のゆがみを整える目的で行う。伸子針をうった面をひっくり返して、その裏に糊を刷毛で塗った]
秋の衣替えに至っては、来る冬の寒さに備えて、洗い張りした布地を縫い合わせる際に綿を中に入れ込んで、綿入れの着物に仕立て直していたということです。一方、春の衣替えでは逆に綿を抜いていたことから「四月一日」を「わたぬき」と読ませる苗字が新潟県などに存在するようです。こんなに手間のかかる作業をして、家族全員の着物を季節が変わる前に用意しておいた昭和時代の主婦には、頭が下がります。

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