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一つ目小僧

木こりの太郎助は、村の衆と山小屋に泊まり込んで山仕事をしていました。12月のお松節句の頃(13日)になると、仲間はいつものように正月準備のため村へ帰ることにします。しかし働き者の太郎助は、もっと稼ごうと1人残ることにしました。村の衆がいなくなった山の中はうって変わって静かになり、夕闇が深くなるにつれ、太郎助は心細くなりました。仕事もそこそこに山小屋に引き上げてきたところに「オーイ」と呼ぶ声。誰かと思い外に出てみると、そこに立っていたのは満月のような目が一つ、口は耳元まで裂けた一つ目小僧でした。恐ろしくて震え出した太郎助は、勇気を振り絞り、燃えさしを怪物の目玉めがけて投げつけます。すぐに鍵をかけ、布団にもぐり込んで、怖さに震えながら一夜を明かすと、朝、一目散に村へ逃げ帰りました。その後、あまりの怖さから太郎助は亡くなってしまいました。村の人々は欲張りの太郎助を一つ目小僧が懲らしめたのだと言ったそうです。

 太郎助を「欲張り」と決めつけるのはなんだかあわれな感じもします。「働き者」であった太郎助は、なぜ一つ目小僧のために死んでしまうことになったのでしょうか。それを解く鍵は誰もが知っている「一つ目小僧」にあります。
 関東周辺で一つ目小僧が現れる日は実は決まっていて、12月8日と2月8日前後に集中します。沓沢でも師走の他に2月3日節分の日にも一つ目小僧が現れると信じられ、今でもバリバリの木の枝に鰯の頭を刺したものを魔よけとして玄関に飾っています。この信仰は「コト八日」と呼ばれる民間信仰で、古くから日本各地で行われていました。各地でさまざまな言い伝えがあるため、ひとくくりにはできませんが、この日は神様が移動する日とも考えられ、それゆえ人は神の姿を見ないよう家にこもり、物忌みする地域も多いのです。
 12月13日に山仕事をせず、正月支度をする沓沢の風習は「コト八日」の慣習の一つであったのでしょう。太郎助が一つ目小僧と出会ってしまったのは、12月13日には山仕事をしないという古い約束事を破ったからなのです。一つ目小僧の昔話は山とともに生き、山の神を信仰してきた沓沢の人々の伝統を今に伝えています。
 ちなみに、この一つ目小僧、小正月に行われるどんど焼きにも関係しています。沓沢の言い伝えによれば、12月末に悪神がやってきて、病気になる人を帳面に付けます。その帳面を悪神は正月の間、道祖神に預けますが、村人を守る道祖神はそれをどんど焼きで燃やしてしまい、村人の1年間の健康を保証するのです。別の地域では一つ目小僧を悪神とする例が多く、沓沢でも「一つ目小僧=悪神」であったとも考えられます。
沓沢の集落
節分にはバリバリの木と鰯を玄関に飾る。
玄関に飾られたバリバリの木と鰯

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